東京ライフスタイル探訪
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【vol.21 神泉】渋谷の裏に潜む、カメレオンのような街

皆さまこんにちは。東京の街を愛する宅地建物取引士、伊勢谷(いせたに)です。こちらの連載では東京の様々な街を “暮らす目線” と “不動産屋目線” でご紹介していきます。

今回訪れたのは「神泉」。日本を代表するビッグシティ「渋谷」まで徒歩圏内でありながら、駅周辺は大人がしっぽり呑める落ち着いた雰囲気で、高級邸宅街『松濤』や『南平台』の最寄り駅でもあります。一方、クラブやブティックホテルが並ぶ一角を抱えているのも事実。今回はそんな街のありのままの姿をお伝えしたいと思います。

「渋谷」まで1駅、徒歩10分の利便性

「神泉」は京王井の頭線の各駅停車駅で、「渋谷」まで1駅・乗車時間約1分。歩いても10分足らずの距離なため、JR線・東京メトロ・東急線など様々な路線を最寄り駅感覚で利用できます。渋谷区の最西端に位置し、目黒区に隣接。山手通り、国道246号線や首都高速道路も近く、車移動にも便利です。
 

▲ 自転車を使えば代官山、表参道、恵比寿、中目黒、代々木上原など様々な街へ10分ほどで到着可能。246沿いから目黒区、世田谷区方面へのバスが頻繁に発着しています。
 

▲ 「渋谷マークシティ」の道玄坂出口まで徒歩4分。建物内を通れば人が多い道玄坂を避け、平坦かつ雨に濡れずに「渋谷」駅まで歩けます。1階、地下1階には「東急フードショー」が入っていますよ。
 

かつて花街として栄えた歴史

駅名は古くからこの地に存在した湧水の霊泉(れいせん/不思議な力がある温泉)にちなんでおり、 “神泉水” と呼ばれていたことに由来します。駅前には温泉銭湯「弘法湯」ができ、明治時代から大正20年頃まで円山を中心とする盛り場の発祥地となりました。

やがて明治初期に三業地(料亭・芸妓屋・待合茶屋の三業者が集まる地)として指定され、花街として栄えていきます。ホテル街が形成されるようになったのは、花街が消えた昭和40年代頃から。現在でもいくつかの場所で街の歴史を垣間見ることができます。
 

▲ 左・通称 “芸妓階段”。芸妓さんが着物姿(下駄)で歩きやすいよう蹴上の浅い階段が現在でも残っています。/右上・駅近くには「弘法大師 右神泉湯道」と刻まれた石碑が。/右下・駅から文化村通りへ向かう途中にある日本舞踊のお稽古場。
 

大人がしっぽり楽しめる駅前 スーパーや八百屋さんも

「神泉」駅から道玄坂までは徒歩3分の距離。旧山手通りまで続く駅前のメインストリートは昔から “滝坂道” と呼ばれ、花街時代には通称 “見番通り” や “三業通り” と呼ばれていたそう。2016年に新しい愛称が公募され、現在は “裏渋谷通り” と呼ばれています。

▲ “裏渋谷通り” 沿いの様子。大きな魚のウォールアートや無数のステッカーがアイコニックな「開花屋」はインバウンドのお客さまで賑わいを見せるお店。

通り沿いは飲食店が多く並び、お昼時は近隣で働く方々がランチに出かける明るい雰囲気。夜営業のみのお店も多いですが、名店を目掛けてわざわざ訪れる大人が多い印象で、全体的に若者が中心の「渋谷」駅周辺と比べひっそりしており、騒がしさを感じることはありません。

また駅から徒歩3分圏内にスーパーや八百屋さんなど生鮮食品を扱うお店が多数あり、意外と生活しやすそうなことに驚きます。
 

▲ 左上・駅構内には野菜やお惣菜を扱う「Mercatino(メルカティーノ)神泉」。/左上・その斜向かいには「まいばすけっと 神泉駅前」。/左下・“裏渋谷通り” 沿いにある24時間営業の「マルエツプチ 渋谷神泉店」。/右下・昔からこの地にあり続ける「金井青果」。

芸術に触れられる環境

駅の北側に延びる渋谷文化村通り沿いには文字通り「Bunkamura」があり、美術館やミニシアターがありましたが、現在は隣接する東急百貨店本店土地の開発計画「Shibuya Upper West Project」に合わせオーチャードホールを除き2027年まで渋谷区内の別々の場所で営業中。コアなファンを獲得しているミニシアター「ユーロスペース」や吹き抜け建築が特徴の「松濤美術館」など、常に芸術と隣り合わせの環境が魅力です。

▲ 左上・東急百貨店本店が取り壊され、剥き出しになった「Bunkamura」の側面には美術家・大山エンリコイサムさんによる大型壁画「FFIFURATI #652」が描かれ、なんとも渋谷らしい風景を醸成しています。2029年に建物が完成すれば『神泉エリア』がますます便利になりそうです。/右上・「Bunkamura」メインエントランスは封鎖状態。オーチャードホールの入り口は建物裏手にあります。/左下・渋谷最古のミニシアター「ユーロスペース」。/右下・白井晟一氏設計の「松濤美術館」。

行政施設が近く 子育て環境も良好

渋谷区の保育園マップを確認すると「神泉」駅周辺の保育園数は少ないものの、近隣に行政施設が充実しているのは大きなメリット。「渋谷区役所」の隣には子育て支援施設があり、区民限定で遊び場などが開放されています。また桜丘エリアには「渋谷区文化総合センター大和田」があり、図書館やプラネタリウム、こども科学センターなど充実したラインナップ。「代々木公園」のケヤキ並木は駅から自転車で5分の距離です。
 

▲ 「渋谷パルコ」がある公園通りを上った先にある「渋谷区役所」。/右上・「渋谷区子育てネウボラ」には屋内プレイグラウンドやアトリエ、保健所や支援センターが入っています。/左下・「渋谷区文化総合センター大和田」は七夕に合わせエントランスが飾り付けられていました。/右下・「代々木公園」入り口のケヤキ並木。園内は2025年7月現在大規模な工事中なので注意が必要です。

カメレオンのように変化する街並み

「渋谷」駅まで徒歩10分。そう聞くと “本当に住めるの?” と思われる方も多いかもしれません。しかし実際には高級邸宅街『松濤』や『南平台』の最寄り駅であり、進む先によって異なる表情を持つのが魅力です。エリアごとにご紹介していきましょう。

◆ 松濤エリア

言わずと知れた高級邸宅街。江戸時代は徳川家の下屋敷が置かれ、明治維新以降その土地を譲り受けた鍋島家が茶園をはじめます。ここで栽培されたお茶を “松濤” と銘打ったことが地名の由来となっているのだそう。茶園が分譲されると数々の著名人・文化人が邸宅を建て、現在の街並みが形成されました。広いエリアが第一種低層住居専用地域に指定され、渋谷区から最低敷地面積200㎡以上という規制を受けていることも豪邸が建つ由縁です。
 

▲ 上・時折高級車が走り抜けるだけの、水を打ったように閑静な住宅街。低層の建物が並んでいるため空が広く気持ちがいいです。/左下・松濤から地続きの神山町にある「駐日ニュージーランド大使館」。/右下・松濤エリアの入り口となる文化村通り沿いにはヴィンテージマンションが建ち並んでいます。

「鍋島松濤公園」内には湧水でできた池があり、メダカや鯉、亀や蛙が生息しており、鴨が飛来します。渋谷至近とは思えない自然の風景に癒されること間違いなし。園内は遊具も充実しているため、放課後や休日は子どもの姿を多く見かけます。
 

▲ 上&左下・「鍋島松濤公園」園内。一角にはTOKYO TOILET PROJECTで造られた隈研吾氏設計の公衆トイレがあります。/右下・公園から徒歩1分の距離にある「渋谷区立 松濤中学校」。2028年には新しい校舎に建て変わる予定。

松濤エリアの東側にあるのが神山商店会、通称 “奥渋” です。オシャレなカフェや飲食店、アパレルショップが並び、中には昔ながらの鮮魚店も。
 

▲ 上・“奥渋” の様子。井の頭通りを越えると「代々木公園・代々木八幡」駅にぶつかります。/左下・メディアで度々取り上げられるカフェや飲食店がそこここに。/右下・鯖味噌が看板メニューの「鮮魚 魚力」。

西側には山手通りが走っており、ここを越えると目黒区に突入。隣接する “駒場エリア” は有名校が多く、都内有数の文教地区としても知られています。
 

▲ 左・山手通り「東大裏」交差点付近。/右・山手通り沿いにもマンションが複数建っています。

◆ 南平台エリア

旧山手通りと国道246号線が交差する「神泉町」の南東側に広がるのが『南平台エリア』。「渋谷」駅から坂を上った先にあり、元総理大臣・三木武夫氏の邸宅があったことでも有名。数々のヴィンテージマンションや高級マンションが集まるエリアです。
 

▲左・「神泉町」交差点。写真でいう左奥が『南平台エリア』。/下・「旧フィリピン大使館」のまわりには素敵なマンションが多数建っています。

◆ 青葉台エリア

「神泉町」交差点から南下した旧山手通り沿いに広がるのが目黒区『青葉台エリア』。そのまま進むと『代官山エリア』に突入します。電線が地中化された通り沿いは街路樹が整備され、空が広く、歩いていてとても気持ちがいいです。大使館や教会、結婚式場などが並び、格式高い街並みが形成されています。

▲ 上・旧山手通り沿いの様子。/左下・通り沿いにある「西郷山公園」。高台から目黒方面を一望できます。/右下・2023年に「サミットストア 代官山鉢山町店」がオープンし、買い物が便利になりました。

◆ 淡島通り沿い

山手通りと淡島通りが交差する場所にある「松見坂」交差点。ここから延びる淡島通り沿いには知る人ぞ知る飲食店が並び、“裏渋谷通り” よりも更に通(つう)で大人っぽい雰囲気が漂います。渋谷行きのバスが頻繁に発着しており、下北沢や三軒茶屋方面へのアクセスも良好。
 

▲ 左・「松見坂」交差点。左右に通っているのが淡島通りで、右手に曲がると素敵な飲食店が点在しています。/右上・ドラマ『サイレント』のロケ地として一躍有名になった「ANEA CAFE(アネアカフェ)」。/右下・ドラマ『孤独のグルメ』で紹介された「レストラン ボラーチョ」。

意外と “超” 高額ではない!? マンションは山手通り沿いが狙い目

「神泉」駅より徒歩10分圏内の過去3年間不動産成約情報を独自に調べてみたところ、エリアによって坪単価にかなりの揺らぎがあることが分かりました。
 

▲ 東日本流通機構(REINS)に登録された、過去3年間(2022/7/1-2025/6/30)の成約事例を集計したもの(オーナーチェンジ物件を除く)。いずれも「神泉」駅より徒歩10分圏内のみを集計しており、同アドレス内でもそれを超えるものや未登録物件はカウントしていないため、全成約を網羅できているものではないことをご了承いただいた上で、ご参考までにご覧ください。(土地 / 建物 / 専有面積45㎡以上、いずれも価格の制限なし)

土地・中古戸建ては売り出し自体が少なめ。中古マンションは山手通りを有する「松濤2丁目」「神泉町」「青葉台4丁目」での成約が多くなっています。
 

▲ それぞれ1件ずつですが、松濤の土地と中古戸建ての平米数に『さすが……』と感服。

中古マンションの平米数に着目すると、駅周辺ほどコンパクトなものが多く、離れるほど広い傾向があります。ヴィンテージマンションが多いエリアなので、築年数は全体的に古めです。
 

おまけ 〜気になる夜の表情は?〜

いつもはランチやお土産を載せている “おまけ” のコーナーですが、今回は特別編として気になる夜の様子をお届け。

「神泉」駅周辺は特に騒がしさはなく、人通りも多くありません。皆さん飲食店で楽しく過ごされている印象です。
 

▲左上・20時頃でも人がまばらな「神泉」駅前。/右上・“裏渋谷通り” も混み合った印象はありません。/左下・花街の名残を感じる、築70年を超えた木造建築「料亭 三長」。建物内には池やお座敷があり、割烹やバーなど5つの店舗が入っています。現在リニューアル工事中。/右下・こちらもお座敷がある「おでん割烹 ひで」。

一方賑やかなのは『道玄坂エリア』にある「しぶや百軒店(ひゃっけんだな)」周辺。ブティックホテルが集まるのもそうですが、クラブや飲み屋さんが多いため、遅くまでエネルギーと活気に満ちています。治安を気にされる方は、こちらのエリアを外して生活すると安心です。
 

▲ 左・味のある「しぶや百軒店」の門。道玄坂にももう一箇所設置されています。/右上・クラブやライブハウスが集まる通称 “ランブリングストリート”。/右下・いいお店が集まっているので、独り身時代はよく足を運んだものです(笑)

まとめ

取材と調査を元にまとめた「神泉」のポイントは以下の3つ。

・「渋谷」駅を最寄り駅感覚で使える利便性
・繁華街はごく一部
・意外と生活感あり

「渋谷」から1駅離れた各駅(表参道、原宿、恵比寿、代官山、池尻大橋)までの距離を測ると「神泉」駅が最も近く、まさに “渋谷と隣り合わせ” と言っていいような印象を受けます。百貨店や複合施設、飲食店からアパレルショップまで何でも揃うため便利なのは言わずもがな、日本のカルチャーを牽引し、人種の坩堝のなかで暮らせる面白さがありそうです。

『道玄坂エリア』周辺こそ夜通し賑やかではありますが、それ以外の場所はまるで見えない結界でも張られているかのように静かで落ち着いた雰囲気。「神泉」駅周辺にはスーパーやクリーニング屋さん、郵便局など生活に必要なお店はひと通り揃っており、案外生活できそうなことに驚きました。

様々な意味で “誰でも住みやすい” とは言い難い面もありますが、せっかく東京で暮らすならこんな街に拠点を置いてみるのも楽しいかもしれません。
 

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